「サキュバス衣装」
「……これが人の恋愛、か……」
夜、書斎にあった本を眺めていた時に見つけた恋愛小説なるものを読んでみたが……
いまいち理解し難い所が多くあった。恐らくは、我自身が誰かに恋愛感情を抱かない故のものだろう。
……まぁ、こう言うのも悪くは無いが。
「ただいま〜!」
「ん……帰ってきたか。」
玄関から幽羅の声が聞こえた。買い物に出かけると行っていたな。
……何か、少し嫌な予感がする。また妙な物を買って来たか……?
「おかえり、幽羅。随分と大荷物だな?」
「えへへ、ちょっと新しい服を買ってみたんだ。咲耶ちゃんも着てみる?」
「……何を買ってきたんだ?」
幽羅が持っている大きな紙袋……赤い何かが見える。やはり、嫌な予感は当たる。
「じゃ〜ん!サキュバス衣装だよ!」
「……お前は……」
それを見た瞬間、我は頭を抱えた。あの夢魔の衣装……噂には聞いていたが、まさか買ってくるとは……
総じて露出度の高い衣装で、男を誘惑する……何故こんな服を……
「結構可愛かったし、お店の人もおすすめだって言ってたから買ってみたんだ〜。」
「で、幽羅は着てみたのか?」
「うん、着てみたよ。何かちょっと……不思議な気分になったけど、凄い可愛かったんだ〜。」
その不思議な気分と言うのがかなり引っかかるが……元よりそんな格好で外に出歩くと言うのか?
「……まぁ、幽羅が気に入ったのならいいのだがな。」
「ね、咲耶ちゃんも着てみない?」
「……勘弁してくれないか。我がそう言う服が苦手なのは分かっているだろう?」
以前も水着を着たが……あれよりも酷い気がする。
幾ら幽羅とてここでは強い口調で言う。
「大丈夫だって、絶対可愛いと思うから!」
「いや、あのな……って、何故そのような目をしている!?」
幽羅は何故か獲物を狙う目をしている。以前にも、こんな事があったような……
「むふふ、覚悟ぉ〜!」
「お前はっ……なっ、体に、力が……!」
飛びつかれた瞬間、何故か体の力が抜ける。こんな所で妙な魔法を使うか……!
「ゆ、幽羅っ……後で覚えておけっ……!」
いつもの服を脱がされ、強制的にその衣装を着させられる。
胸元に足……本当に露出の多い服だ……自然と顔が赤くなる。
「くっ……こ、こんな……」
「す、すご……あたしが思ってた以上に似合ってる……」
着させておきながら何故か驚いた顔をする幽羅。
だが、我はそれ所ではない。早く脱がなくては……が。
「な、何……!?」
何故か脱ぐ事が出来ない。どうなっているんだ、これは……!?
「ただいま戻りました。」
「あっ、幽羅さんも帰ってきてるみたいですね。」
「くっ……!」
こんな時に雪乃と羽衣が帰ってきた。こんな姿を見られたら我は……
急いで脱がされた服を持って、我の部屋へと走った。
「あ、ちょっと咲耶ちゃん!?」
幽羅が後を追うが、それより早く部屋に飛びこみ、鍵を掛けた。
どうにかして脱がなくては……だが、衣装はまるで体と一体になったような状態だ……
どこぞの呪われた装備じゃあるまいし、それよりただの衣装の筈だ。
それなのに、一体どうなって……
「……なん……だ……?」
何かが体に根付いていくような、そんな感覚。体が、熱い。
「う……んっ……」
何故だろうか……とても、心地よい。
ふと、窓の外を見ると、美しい満月がそこにはあった。
「……ふ……ふふっ……」
思わず少し笑ってしまう。何だ、悪くないじゃないか、この姿も……
「咲耶ちゃん……大丈夫?」
ふと、扉の外から幽羅の声が聞こえた。
声が震えている。なるほど、謝りにでも来たか……丁度いい。
鍵を外し、幽羅が中に入ってきた。
「あ、あのね……さっきは、ごめん……」
「……いいんだ、気にするな。案外、この姿と言うのも悪くないと思ってな……ふふっ。」
「え……?」
そして、もう一度鍵を掛ける。魔法で固定してある、もう中からも外からも開ける事は出来ない。
「さ、咲耶ちゃん?どうしちゃったの……?」
それに気付いた幽羅の顔から血の気が引いていくのが分かった。
「ふふふ……折角幽羅が用意してくれたのだ……今宵は楽しもうではないか。」
「い、いやっ……咲耶ちゃん、ダメだよ……きゃっ!?」
部屋の隅に幽羅を追い詰め、押し倒す。華奢な体が月夜に照らされる。
「や、やめ……やぁ……」
「安心しろ、声は外には届かぬ……さぁ、始めようじゃないか……」
「いや……いやぁぁぁっ!!」
……その後の事は、良く覚えていない。
翌朝、幽羅と倒れていた所を雪乃に見つけられ、幽羅から事の次第を知った。
幽羅は反省していた。が、例の衣装はそのまま残す事になった。
……少なくとも、満月の夜に我が着るのは危険だと言う事は、我が身で知った……それが最大の収穫だろう。
ギャグを書こうとしたらいつのまにか変な事になっていた。続けると危険だったので強制終了。
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